マンスリーリレーコラム
第15回 コウノトリの現場に来て見えたもの
給餌の様子
村尾久司と申します。山陰海岸ジオパーク推進協議会を転出し、現在は兵庫県立大学大学院(コウノトリの郷公園内)で勤務しています。
協議会にいた頃、平成26年と30年に世界審査を経験しましたが、視察先の一つとして必ず見てもらったのがコウノトリの郷公園でした。むろん、動物園のように単にコウノトリを見学してもらうのではなく、主眼は、一度絶滅したコウノトリを再び野生に復帰させるという壮大な物語にありました。
この野生復帰プロジェクトは世界審査員からも評価が高く、当時、事務局員だった私は、自分が取り組んだわけでもないのに鼻高々の気分となったものです。
そして今は、その現場にいるわけですが、来てみて初めて知ったことがいくつもあります。
例えば2005年の放鳥以来、着実にその数を増やし、野外に生息するコウノトリは現在250羽超。素人考えでは、野生のコウノトリが増えるのは単純に喜ばしいことと思っていました。ところが、ただ数が増えればいいというものではなく、様々な課題があるようです。
郷公園では、「飼っている」コウノトリに毎日エサを与えていますが、来園者に公開しているオープンケージでは、このエサを野生のコウノトリが食べにくる。自然の中で暮らす野生の生き物は、自分でエサを探して生きていかなければならないのに、人間に頼っている。これでは「真の野生復帰」とは言えないのです。このため、一昨年、野生のコウノトリがエサを「横取り」できないように給餌方法を変更しました。これにより野生個体の生態や繁殖にどう変化が現れるか。一つの「実験」が進行中です。
また、コウノトリは大食漢(5kgの体重で毎日500gのエサを食べる)のため、自然界に大量にエサがあることが必要です。エサとは、ドジョウ、フナ、カエル、カメなどの水生生物や、ヘビ、バッタなどです。
豊かな餌場を増やすために、冬期湛水や減農薬・無農薬栽培など環境創造型農法の取組みが行われていますが、繁殖地が県外にも広がりつつある今、この取組を全国に広めていく必要があります。
というように、コウノトリの「真の野生復帰」物語はまだ進化・深化を続けています。
「現場」に来てみると、それまで知らなかった「変化」と「深み」を目の当たりにします。これはきっと、山陰海岸ジオパーク内のあらゆるエリア、あらゆるプレーヤーにも当てはまることと思います。それを共有し、発展を続けていくユネスコ世界ジオパークでありたいと思います。
投稿者:兵庫県立大学大学院豊岡ジオ・コウノトリキャンパス(コウノトリの郷公園内)
村尾 久司
hisashi_murao[アットマーク]ofc.u-hyogo.ac.jp
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